
粟、ひえ、きび、とうもろこしは餅について食べ、大麦は押麦にしたり、引き割りにし、腹もちがよいので重労働の時に食べたというのである。小麦は粉にして、ほうとう(これは、山梨の郷土食で、うどんを野菜と一緒に、いきなりみそ汁の中に入れて煮込んだもの)と、まんじゅうにして食べていたということである。
そして、動物性蛋白質の肉や魚は、ほとんど口にすることはなかったというのである。
ところが、この山村にも道路が整備され、自動車が通るようになると、肉や魚や白米などが持ち込まれるようになった。そうすると、若い人々の中では、肉食、白米食をする人が増えていった。その結果、どういうことが起ったかと言うと、そういう人々に高血圧の肥満者が目立って増え、脳溢血で倒れる人がどんどん出てきた。そして今日では、その脳溢血で倒れた人たちの面倒を、その両親達が見ている有様だというのである。
日本における有数の穀倉地帯には短命が多いと近藤正二博士は「日本の長寿村・短命村」の中で書いている。具体的には、秋田県、山形県が短命県なのである。米が豊富なだけに十分精白し、たらふく食べ、畑が少ないため、野菜類は必要量を満たしていないのである。米どころでありながら長寿村である鳥取県の大山町や、徳島県の藍園村、学島村などは、売り物である米は食べず、自分たちはさつまいも、麦などを食べ、田のあぜ道に大豆やニラなどを植え、畑で野菜を作るなどして、白米を食べずに、それらのものを十分食べている。
島根県の隠岐の島は沖縄と並び、健康長寿者の多い所だが、彼らは大豆製品を毎日食べている。豆腐、納豆、あるいは、つぶし豆を乾燥させた打ち豆などである。このように食べ物が人の健康に与える影響は極めて大きい。