2008年3月16日日曜日

人間はなぜ幸福でないのか6 - エゴイズムがあるから(1)

エゴイズムとエゴティズムとは違う。エゴイズムは利己主義のことで、エゴティズムは自己中心主義のことである。この両者の違いについてまず説明し、エゴイズムが人間を幸福にしないのだということをはっきり覚えておこう。

人間はだれでも自分というものを持っている。自分がなくなったら、もはや生きていくことはできない。これは、自己中心ということである。私たちがそう簡単に死ねないのも、この自分というものがあるからだ。また主体性ということは、これに関係のあることで、自分というものがしっかりと確立していることを指している。だから、自己中心そのものを悪と考えるのは、早計で、悪いのは、自分さえよければいいと考えるエゴイズムなのである。

人間はだれでも幸福を求める。そのこと自体決して悪なのではなく、このような幸福追求は、自己中心ということから起ってくる。ところが、自分さえ幸福であれば、たといほかの人が不幸であっても構わないと考えたり、ほかの人の不幸の上に自分の幸福を築き上げようとするに至ると、これは明らかに悪であって、それこそエゴイズムの正体であると言ってよい。

さて、近代における人間性の探求は、人間をほかの人から孤立した人間として探求してきたところにある。自分をほかの人から切り離して、自分を自分たらしめる「自我」という抽象的な原理をそこに見いだし、その自我を無限に追求し、発展していくところに自分の幸福があるというふうに考えてきた。このような考え方は、結局のところ「自我」を絶対化してしまうことになり、ほかの人との間に心と心が通い合う交わりを生み出すことができず、孤独のどん底に自分を追いやる結果になってしまった。近代における自我の自覚から始まった自我追求が、今日一人一人に孤独を与える結果に終ってしまったことを指摘できると思う。

私たちは、自分がいかにエゴイストであるかということをよく知っている。エゴイストはいつも「自分さえ」という考え方をその根底に秘めている。だから、そういう生き方をしていると、ほかの人はすべて自分にとって利用価値のある者としてしか見ないため、本当の友人が出来ないだけでなく、夫婦の間においても、心と心の通い合う間柄が生れてこないのである。